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小説「マンション管理人.com」第一話⑩

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2016.11.20

 

 雄介は福山に向かう新幹線の中にいた。あっと言う間に過ぎた有給休暇期間だった。 

 月曜日に菅野から両親の現状の話を聞き、火曜日は菅野の勧めで銀行にもいった。実は母も父ももう何回となく、通帳やカードを紛失したり暗証番号を何回も入力ミスしたりして、カードが使用停止になったりしていた。

 

 詳しく法定後見人の話も聞いたが、少々敷居が高いようだ。まずは、銀行に便宜を図ってもらって、その銀行のしかもその支店の窓口しか利用できないが、雄介が代理人になって預金の入れ下ろしは可能のようだ。その方向で考える事にした。

 

 雄介は窓の景色などまったく目に入れず、考えを巡らし続けた。ひとつの問題は父の認知症診断だ。以前に菅野がそれとなく父に打診したが、驚くほどの「拒否」があったとのことだった。父はまだ俗に言う「まだらボケ」の段階らしい。

 

 つまり、調子のよい時は健常者と変わらない。そんな時に、自分がボケている可能性に触れられても、到底受け入れるわけがない。あの父が。

 父は若くして起業し、それなりに稼いでいた時期があった。しかし一度手形で不渡りを掴まされてから坂を転げ落ちるように倒産まで一気に落ちた。

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 ただ父にはわずかばかり運が残っていたようで、取引先の社長さんが助けてくれて最終的に借金も残らず、サラリーマンとしてだがその社長さんの会社で職を得る事が出来て、定年まで勤め上げた。

 苦しかったなりの、自分の人生観や哲学はもっているプライドの高い男だ。自分が認知症でボケたなどと言う現実を受け入れるわけがないと雄介は理解している。が、どうするか…

 

 雄介は買っておいた缶ビールに手をつける。自分でも酒好きは否定しないが、今は呑まずにはやってられないと言うのが正直なところだ。

 「ふ~」一口ビールの飲むと息がこぼれた。

 一番気になるのはお金の事だ。雄介はそこそこ稼いではいるが、実は貯金らしきものはほとんどない。わりと贅沢に飲み食いをし、洋服を揃える生活を長く繰り返してきた。自分の収入が下がる事など頭の片隅にもなかった。

 

 しかし、今後はどうだろう。うまく金沢が神戸への転勤の絵を描いてくれても、両親に介護の必要性が高まれば、勤め続けるのは難しいかもしれない。

 頭の中で、今答えが出ない事だとわかっていても悪い想像だけが、ぐるぐるまわる。

 

 「うん?」雄介のポケットの中のスマホが震えた。

 取り出して画面を見ると、金沢からのメール着信だった。雄介は直ぐに開けて見た。

 「お疲れ様。詳しくは社で話すが11月1日付けで、神戸支社第二営業課係長で着任と決まった」メールにはそれだけしか書いていなかった。金沢らしい。

 「そうか、決まったか」雄介は誰に聞かすとなくそう言うと、ビールと一気に飲んだ。

 

第一話完

第二話につづく。

by おしょぶ~

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