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マンション管理人.com

管理人をやりながら、世の中の色々を見ていきたい。

小説「マンション管理人.com」第二話①

小説「マンション管理人.com」
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http://www.ac-illust.com/

2016.11.30

 

 雄介は多忙を極めていた。福山での引き継ぎ、神戸での引き継ぎが終わると、早速神戸のクライアントとのリレーション作りに専念していた。

 損得勘定を抜きにした情報提供や細かいフォローの下地があってこそ、大きな提案も出来ると言うのが金沢部長の教えだった。
 雄介はベタな営業スタイルだなとは思ったが、バカになってこのスタイルを取り入れた後、成績が大幅に上がったので続けている。神戸に転勤してきてあっと言う間に一カ月が過ぎさり十二月に入っていた。
 

 

 雄介の勤める会社は営業成績の締めを四半期毎に査定している。月間目標はあるにはあるが、目安程度のもので三カ月に一回大きな締めが来る。読んで字のごとく社内では「クオーター」と呼んでいる。
 三月が本決算なので、十月~十二月が「第三クオーター」と言うわけだ。通常、転勤はこのクオーターに合わせて行うのが、慣例となっていたが雄介の場合事情が認められ十一月の転勤となった。
 ただ雄介は自分の事情なので良いが、入れ替えられた元ここの係長はたまったものではない。三か月の間で刈り取るべき営業案件を途中放棄し、雄介の案件を引き継ぐ事になる。
 転勤当初は引き継ぎの挨拶回りと、先方担当者とのリレーション作りであっと言う間に一カ月ほど過ぎるはずだ。クオーターの途中転勤だと、営業の刈り取りが間に合わずクオーター目標を外してしまう傾向にある。
 

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http://www.ac-illust.com/

 

 ここの元営業係長は柴田 家康(しばた いえやす)で、雄介と同期だ。
 入社式で話をした時は、名前を聞いて「お前は武将か」と関西独特の突っ込みを入れたくなった事を覚えている。
 同期だが配属先が重なった事はなく、同期会で話す程度の仲だが雄介はなんとなくシンパシーを感じる相手だなと思っている。それは柴田も同様のようで、同期会の飲み会ではいつも話に花が咲くが、何かある毎に連絡を取り合う程の仲までにはなっていない。
 

 

 今回の転勤の件では、雄介は柴田に対して借りをひとつ作ったと思っている。

 雄介のデスクの直通電話が鳴った。社内どうしの通話用で通信代が発生しないシステムになっている。「はい。営業小笠原です」
 柴田からだった。「お疲れ!柴田です」
 柴田の細面の顔が浮かんだ。
 「お疲れ様、何かあった?」
 「うん。ちょっとオハラ工業さんの事でさぁ」
 話の内容はさして深いものではなかった。確認しておくに越したことはない程度の事だが柴田のきっちり仕事を進める姿勢を感じる電話だ。
 

 

 仕事の話に区切りをつけた後、「花が舞うのママが会いたがっていたぜ」とフランクな話を投げかけてきた。「花が舞う」は雄介が福山時代に通っていた小料理屋だ。
 カウンターとボックス席が二つの小さな店だ。季節の総菜が、カウンターに大皿で並びその日に仕入れた魚を刺身などで提供してくれる。
 着物のよく似合う和風美人のママと板さんが一人いる。板さんとママがどんな関係か気になっていたが、とうとう転勤まで聞けず終いだった。
 「え?家康、あそこに行ってるの?」
 「ああ、常連のお店もちゃんと引き継がさせてもらったよ」柴田から笑いが漏れた。
 「いや、本当に途中引き継ぎすまないな。借りにしておいてくれ」
 「何言ってる、そんなつもりで言ったんじゃないよ。わかってるだろ?」
 雄介は十分わかっているが、つい謝ってしまうのだ。

 

つづく。

by おしょぶ~ 

 

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