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小説「マンション管理人.com」第三話②

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https://www.ac-illust.com/

2017.03.09

     

 「この間の話なんだけど、俺の課に良い対象者がいる」

 「ほんとうか?誰だい」

 「小笠原係長だよ。いま彼は親がボケてきて困っている。母親は相当進んでいるらしい」

 「小笠原?お前のところのホープじゃないか!いいのか?」

 話しているのは神戸営業1課、課長の里 穣と東京本社総務部総務課、課長の小林 信(こばやし しん)だ。

 

 2日前-里のデスクの内線が鳴った。

 「はい。神戸営業1課、里です」

 「お疲れ様です。小林です、ひさしぶり」

 「え?えらい又珍しい人から電話だね」里は少しフザケタ口調で言った。

 「そう虐めるな。ご無沙汰して悪かったよ」向こうで頭をかいているのがわかる。

 

 里と小林は同期で、平社員の頃は東京新宿支店で一緒に営業課員として働いていた。ウマが合った二人は、ライバルであり戦友でもあった。お互いが交互に新宿営業2課のトップセールスを取りあっていた。よく二人で飲み明かしたものだった。

 

 お互い何度か転勤を繰り返したが、メールではたまに連絡する仲だった。ただ、小林が総務畑の方に進んで人間関係があまり重ならなくなったのと、結婚を機に小林は見事にマイホームパパに変身した為、別に仲は悪くなっていないが疎遠になっていた。

 

 「いや、冗談冗談。家庭第一がいいよ」里が笑った。里はまだ独身だ。

 「いやしかし、今日は何だい?」里が続けた。

 「ああ、実はお願いがあってな」

 

 小林の話はこうだった。最近、電報の社員の過労自殺の件で上が働き方改革に本気で取り組みだした。(いや本音で言うと取り組まざるを得ない)

 とは言え現状当社は電報と変わらない労働環境だ。そこで、まず今ある有給などの制度をどんどん利用してもらい、会社が本気だと言う事を社内・外に伝えると言う。そのプロジェクトの責任者に小林は選ばれてしまった。

 

 ただ、正直有給に手をつけるのはしんどい。いま大幅に社員の有給取得率が上がると、現場の人手不足が悪化するし生産性も下がる。

 そこで、特別休暇制度の中で男性の育児休暇・介護休暇を各支店で数人取得してもらい、それを社内報に載せて全社員に、会社は労働環境改善に取り組んでいるよ!とアピールしたいらしい。新卒採用に良い影響が出る様に、プレスリリースも考えているようだ。

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 ただ上には誰にでもこちらから働きかけて、休暇をとらせるのも引っ掛かりがあるらしい。

 会社の業績にあまり影響が出ない人材をピックアップして、とらせて欲しいらしい。

 

 里はその話を聞いて吹き出した。「つまり、作り話じゃん!」とわらった。

 「そう言うなよ。休暇は本当にとってもらうのだから作り話はひどいよ」小林の困り顔が見える。

 「まぁ、話は分かった。心当たりがないわけではない」

 「ほんとうか?助かる」安堵のため息が伝わった。

 その後、しばらく近況報告などをお互いして電話を切った。

 

 その二日後に里から小林にかけた電話だ。

 「ああ確かに小笠原はうちのホープだ。戦線離脱は痛い」

 「なら、どうして?」

 「お前には悪いが、上の意向ばかり聞いてはいられない。社会が労働環境に目を向けている今はある意味チャンスだ。本当に困っている人間に休暇をとってもらう。少なくともうちの課ではな」

 

 小林は苦笑いしつつ「しばらく会っていなかったから、お前の性格を忘れていたよ。絵を描くのは嫌いだったもんな。そう真っ直ぐ来られると、切り返す言葉がないよ」

 電話ごしだが、会話を通じて二人のシンパシーは重なり話は決まった。

 

つづく。

by おしょぶ~

 

※これ以前の話はこちらから↓

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